“ものづくり“と“ものがたりづくり“を一緒に考えていく

MUKASA-HUBレセプションパーティー

トークセッション1日目 

ゲスト:

CMディレクター今村直樹さん

クリエイティブディレクター田中淳一さん 

 ファシリテーター

MUKASA-HUBプロジェクトリーダー 村岡浩司 

 

今村直樹

1954年生まれ、岐阜県出身、CMディレクター。東北芸術工科大学映像学科教授。上智大学新聞学科卒業後、サン・アドなどの広告制作会社を経て、1988年に独立し、今村直樹事務所を設立。2002年よりCM制作者集団・ライブラリーを主宰している。サントリーリクルート資生堂花王、ライオン、JR東海JR東日本トヨタ、日産、メルセデスベンツ、味の素、ソニーパナソニックなど、数多くの企業のテレビコマーシャルを企画・演出してきた。ACC賞、ニューヨークADC 賞、消費者のためになった広告賞最優秀賞など受賞多数。最近の代表作に、第一生命・ダイワハウス協和発酵キリンジャパネットたかたなどの企業広告、マスターカードpricelessシリーズ、シャープアクオス住友生命などがある。2011年、早稲田大学大学院公共経営研究科を卒業し、地域活性化のための広告にも目を向けている。

https://www.facebook.com/naoki.imamura.12

田中淳一

宮崎県延岡市出身。早稲田大学第一文学部演劇専修卒業、旭通信社(現ADK)入社。ほぼ全業種の大手企業で多くのキャンぺーンを担当し、2014年10月退社。同年、クリエイティブ・ブティックPOPS設立。現在、全国15都府県以上で自治体やローカル企業のブランディングやプロモーションを担う一方、大手企業やローカル企業のグローバルコミュニケーション、GOOD DESIGN EXHIBITION2015のクリエイティブ・ディレクション、長編コンテンツの脚本なども手がける。Spikes Asia、ADFEST、NY festival、BDA、short short film festival & Asia、ACC賞、日経広告賞、毎日広告デザイン賞、消費者のためになった広告コンクール、トロント国際映画祭公式上映など国内外受賞歴、国際広告祭の審査員歴、各地の大学や公共機関などでの講演も多数。

http://pops-inc.jp/about/

 

 

 

MUKASA-HUB連載企画 VOL.02  

今村直樹さん・田中淳一さんに聞く

“ものづくり“と“ものがたりづくり“を一緒に考えていく
〜これからの地方ブランディングに求められること〜

 

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村岡「九州パンケーキというのは非常に特殊な成長の仕方をしてきたブランドかもしれません。実はこのブランドが生まれた時、現在のロゴや映像はできていませんでした。そのまま未完成で発売して、後からロゴマークを刷新したり映像を作りマーケットに発信していきました。面白い流れですよね。当時のことも振り返りながら、お二方を紹介したいと思います。」

 

 

今村「みなさんこんにちは。まずは村岡さんMUKASA-HUBスタートおめでとうございます。私は30年以上、CMデイレクターをしてきました。今は東北の山形にある東北芸術工科大学というところで映像学科の教授をしています。ご縁があって、九州パンケーキのCMの制作をさせていただきました。MUKASA-HUBの映像も、あと数日で第3弾が完成します。そちらの制作もお手伝いしました。よろしくお願いします。」

 

 

田中「村岡さんおめでとうございます。田中淳一といいます。僕は延岡出身で、しばらく東京の広告会社に勤めていました。2年程前に”ローカルソーシャルグローバル”がコンセプトの、“POPS”という会社を立ち上げ、全国の自治体のブランディングをしています。今村さんとは芸工大の非常勤で一緒に授業をさせていただいています。」

 

 

村岡「ありがとうございます。九州パンケーキを語る時に、今村直樹という人間なしでは語ることができません。このブランドは4年半前に誕生したのですが当時は売る場所がありませんでした。でも一度食べていただければ必ず気に入ってもらえると確信があったので、発売を先行して色々な方にお配りしました。その中の1人が今村監督だったんですね。僕ははっきり覚えているんですが、1月5日、夕方の6時くらいにすごく想いのこもった、長文のメールが届いていて。その文面の最後に、「CMを作りましょう」と書いてあったんです。すごいなぁとは思ったけれどとんでもない、CMなんか絶対に無理だと思いました。なぜなら、資金は開発で全て使い果たしてしまっていたからです。九州パンケーキは、口蹄疫新燃岳噴火の直後で、一番苦しい時期に生み出したものでした。しかし今村さんは、”オフコマーシャル”というものがあるということを教えてくださいました。今村さん、オフコマーシャルについて話していただけますか。」

 

-オフコマーシャルという考え方-

 

今村「はい。通常CMにはクライアントがいて、予算があって、テレビで放送する計画があって、広告全体のプランがあります。その流れをまるごと逆にしたのがオフコマーシャルだと僕は説明しています。僕がいいと思うクライアントを見つけて、予算の面も含め相談しながら作っていく。ちょうどその頃にYoutubeが登場してきたので、なんだ、タダでオンエアできるじゃん!ってなって(笑)それに映像には制作に関わった人の気持ちを一つにしていく力があるので、そうゆうところも含めて、オフコマーシャルは面白い。最初は東京の小さなファッションメーカーから初めて、2本目にシャボン玉石鹸という北九州無添加石鹸、3番目に長野県小布施町にある一市村酒造場のCMを作りました。全く予算のないところから資金を捻出してもらったり、あとから支払ってもらったり。僕が出したこともありましたね。そして4本目に始めることになったのが九州パンケーキという経緯でした。」

 

村岡「そうですね。当然もう発売はしていたのですが、監督からこれを全国で売るにはロゴが野暮ったいし力がないので、パッケージを思い切って変えませんか?と提案されたんですよ。無茶苦茶ですよね?(笑)資金のない中でやりくりして、すでにラベルも作っていたので少し考えましたが、どうせやるからにはということで、日高英輝さんに依頼して、素敵なロゴを作って頂き、すべて刷新しました。そこから1年半かけて九州中を旅して、このコマーシャルを作りました。

 

https://youtu.be/Z1vmuM3P-4I

Happy Pancake編

 

https://youtu.be/eoWr-DE1FHA

インタビュー編

 

村岡「僕はなにか壁に当たった時、分岐点に立った時に、このCMを見てイメージをすり合わせて行くようにしています。実はこのオフィス(MUKASA-HUB)を作ろうと思ったのも、以前の少し手狭なオフィスでスタッフが配送作業をしている風景を見て、違和感を感じてのことでした。つまり、九州パンケーキ的な働き方を社内にも浸透させたいと。先にイメージ(映像)を作って、僕はそこに存在する世界観に合わせていく。そうゆう不思議な育ち方をしたブランドです。田中さんは東京の第一線で仕事をしながら地域でも活動されていますが、どういった想い・考え方で地元に戻っていらしたんですか?」

 

-これからの地方ブランディングに求められること-

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田中「長い間東京で映像を作ってきて、“もう僕以外の人たちでいいんではないのか“という想いが強くなりました。僕は地方のために映像を作って、その場所で必要とされる存在でいたいな、と。色々なところを回って制作をしていて、今は非常に精神的には健全な状態で仕事ができています。」

村岡「たくさん作品がある中で、今日は田中さんの地元、延岡の東九州バスク化構想Special Movieを見ていただきたいと思います。」

 

https://youtu.be/Bby4uxHu6sk

東九州バスク化構想 Special Movie

 

 

村岡「いやぁ、延岡に行きたくなりますよね。プロ同士が聞けないだろうから聞いちゃいますけど、今村さんはこのMovie、どう見られますか?」

今村「僕は最近ムービーデザインという言い方しているのですが。映像を作ることもデザインですが、ただ面白いということだけではなくて、ロゴへのこだわりや“バスク化“という言葉を見つけてきたところが素晴らしい。延岡は海の幸・山の幸が豊かなところなのですが、それをバスク化という言葉で方向づけて、全体を巧みにデザインしている。演出がどうっていうところもあるとは思うのですが全体のプランニングがやっぱり巧みですよね。」

 

村岡「田中さん、今回改めてふるさとを見て感じたことはありましたか?」

 

田中「そうですね。“食でやりたい“と延岡市の方からは言われていたのですが、延岡、食、有名だっけ…みたいな(笑)でも調べてみたら実はたくさんあって。しかし食で町興しというのは、前例も多いので難しいんですね。色々考えて、海の上にレストランを作ったり、他ではできないことにチャレンジしました。実はこの仕掛け(いかだ)も宮崎の看板制作会社にお願いしたのですが、地元の人を巻き込んでいくと、そこにノウハウが蓄積されていくんですよね。そういうことも改めて実感できました。」

 

村岡「最近、地域ブランディングとかそうゆう言葉を耳にする機会が増えているかと思いますが、そのことについてどうお考えですか?」

 

田中「そうですね、再生回数100万回とか、ネットでの再生回数を気にされる方が多いと思うんですが、一番気をつけているのは、地元の人が悲しい気持ちになる動画は作らないということです。どんなに目立っても面白くても、単なる話題だけになってはダメ。そこは大事にしたいなと思っています。」

 

今村「行政中心に映像で発信するのは1種のブームと言ってもいいかもしれません。そこで危惧することが2つあって、1つが継続性です。行政の担当者は3年ごとに変わってしまう。バスク化計画という旗を上げて形にしていくには、10年20年かかると思うのですが、それできちんと継続していけるのか?というところです。あとは、再生回数を指標にするのは危険だということ。僕はたった一人でも、感動してくれた方がいればいいと思っています。100万人にではなく、1人の心にしっかり響く映像を作りたいなと。一番身近な厳しい批評をする人に“何このCM?”っていわれたらダメだと思うんですよね。ものがたくさん売れるということより、身近な人が喜んでくれるとかそういうことをもっと大事にしていかないと。数字、アクセス数が上がればいいという風潮はどうなんだろうって思いますね。」

 

村岡「一人の心に刺さることが大事だということは今村さんにずっと言われていて。本当に数ある今村作品の中で、僕自身も作品であり九州パンケーキも作品だと勝手に思っています。このCMの曲はアンサリーさんという東京のシンガーが、映像からイメージして作ってくれました。これが我々のカフェで流れていて、お客様も1時間後には口ずさみながらかえるくらい、たくさん聞かれるようになっていて。今村さんが作っていただいた九州パンケーキの映像は、お店に来てくださるお客様の潜在意識に刺さる、そうゆう作品になってくれたんじゃないかなと思います。」

 

今村「嬉しいです。村岡さんはこのCMが九州パンケーキを育てたとおっしゃいますが、僕は逆だと思っています。九州パンケーキが生まれた時点でもう全部完成していたと言っても過言ではない。九州7県の素材で作るという考え方がもう全てなんですよね。僕のプランニングでもなんでもなくて、村岡さんの商品の発想なので、そのまま素直に形にしていけばいいと考えながら作りました。」

 

村岡「ありがとうございます。客観的に考えていくと面白いのは、〇〇連携とか6次化とか地域商品を作ろうとする時にどうしたら東京で売れるか?ということを先に考えがちなんですよね。でもそうではなくて、ストーリーをどう表現したいのかという部分に主軸を置いて考えるのが正しい。うちの場合は母体が飲食なので、食卓で笑顔の時間を作りたいというシンプルな思いがあって。そこからどうやってマーケットに届けていくかという手段を当初は僕らは持ち得ていませんでした。が、これからはここにいるみなさんにも更に道を開いていただけると期待しています。

せっかくなので、質問を受け付けたいと思います。てげツーの長友さん、何かありませんか?』

 

長友まさ美さん「ありがとうございます。九州から世界にこんな面白いことが生まれるんじゃないか、というアイデアがあったら是非教えてください。」

 

今村「はい、一つは、地域の映像を作る時に、いいものを作るために東京のスタッフと地域に乗り込んできていたのですが、これからはできるだけ地域の人の力を活用していこうというところです。そうゆう意味では今回Time&Air Partnersさんと映像を作っているし、今後もご一緒できたらいいなと思っています。それから、村岡さんと九州ブランド研究所という構想を練っていて(笑)九州パンケーキのようなブランドを素晴らしいアイデアで生み出そうとしている若い人、ベテランの人、いると思うんですよね。おっ!て思うものがあれば、それを育てる、映像を作る、ロゴを作る、パッケージデザイン一緒に考える。なんでもいいので、東京でやって来たスキルをもっと地域の志のある人のために活用する、一緒に作っていける、そうゆう基地みたいなものを作りたいという思いがあります。」

田中「日本には、各地に現地に根ざしたものづくりのスキルもあるし伝統もあります。そこに足りないのは物語作りで。“ものづくり”は一流だけれども、それを“ものがたり“として”魅せる”ことがあまり上手じゃなかった。客観的に見ると“九州パンケーキ”はもう、名前自体がストーリーなんですよね。“ものづくり“と“ものがたりづくり“を一緒に考えていくことが、これからの地方には非常に求められていく部分なのではないかなと思っています。僕らのような職(クリエイテイブデイレクター)の人間が、地方に出向くのも限界があるので、地元にもっとそういった人材が生まれるべきです。アートディレクターやコピーライターもそうですし、そこからクリエイテイブデイレクターが出てくるというようなことが必要です。MUKASA-HUBからもそうゆうきっかけが生まれてくると思いますので、もちろんお手伝いしますし、ここが基地になってクリエーターが生まれていく場所になってほしいなというふうに思っています。この場所が、宮崎が発展する一つのきっかけになるんじゃないかなと思います。」

村岡「ありがとうございます。ところで九州ブランド研究所(注)、今日からスタートということでよろしいですか?」

今村「もちろんです!」

村岡「CM業界のレジェント、クリエイテイブの巨匠、お2方が揃って、ここにいらっしゃる方たちだけでも、本当に面白いものが生まれるんじゃないかなと思います。人とか地域とか物とかいろんなものが生まれる予感がしますね。引き続きMUKASA-HUBを、よろしくお願いします!」

 

 


注:九州ブランド研究所

CMディレクター今村直樹さんが主催する、九州の良いもの、こと、人、地域を元気にする「映像を軸とするクリエイティブの力で、地域の課題を解決する」プロジェクト構想。

 

 

 

 

ライティング:MUKASA-HUBレセプショニスト兼ブックスタッフ 倉本亜里沙 

 

 

MUKASA-HUBのこれまでとこれから-後編-

この街で、日本一のベンチャーヴィレッジを 

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__開けていて気持ちのいい立地ですよね。 

これからこの場所に、どういったビジョンを抱かれていますか? 

 

村岡「これからということを話すと、日本一のベンチャーヴィレッジを作ってみたいと思うんです。今は校舎だけの活用ですが、このグラウンドに40フィートコンテナを20台入れて、そこにも20社誘致する。今のテナントを合わせて30〜50の企業がここに立地していて、総勢300人くらいの人間が働いている。そういう場所にできるでしょ?向こう3年での実現を目指して構想を練っています。  革新的なベンチャーは東京からしか生まれないみたいな錯覚を根本から否定してみるというか。そもそも場所は関係なくて、別に渋谷のIT企業界隈からじゃなくってもベンチャーの流れは作れるんだよ。起業家が育つためには「ヒト、モノ、カネ」が必要だとすれば、起業家を支援するファンドも作るつもりです。東京や福岡のような都会に憧れた時代は、終わり。地方でもやれることを証明したい。 

 私自身の目標は食の世界ブランドをここから作り上げたい。マクドナルドの創設者レイクロックだってめちゃくちゃ田舎に1号店を作った。ケンタッキーなんて、ケンタッキー州でしょ(笑)。スターバックスもシアトルのはずれ、港町にあるパイクプレイスから始まりました。日本だけですよ、都会からしか”ブランド”が生まれないなんて未だに信じているのは。これからは地方の時代です。」 

 

自分で描いた未来図を、全力で信じる

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_そう言われると確かにそんな気もします。地方から世界を目指すということは可能なんでしょうか? 

 

村岡「まあでも、できるかできないかなんて結果論なので。日南の油津コーヒーがオープンしてちょうど3年になるんですが、あの朽ち果てたカフェを、少人数でお金を出し合ってリニューアルして、それが起点となってやがて町が変わっていきました。 油津商店街のカフェが再生できるなんて思っていた人が、あの頃何人いたか。ましてや、あの町が蘇ると信じた人は何人いたか。青島ビーチパークもプロジェクトスタートの時に関わらせて頂いていたのですが、あそこも今年3年目ですよね。  

 3年という時間は、そんなに短いものではなくて。その時間軸をイメージして未来図みたいなのものを信じられる人がいるかどうか。100パーセント「自分たちはできる」として信じる人がいて、それを支えようとする人たちがどれだけ集まるか。何度も繰り返しますが、まずは自分自身が起点となって責任を背負いつつ行動するということが大切だと思います。 

 

 ”できるかもしれないな”という空気が世の中を支配していくと、一気にその方向に向かって、そしてイメージは実現していく。例えば日南の木藤亮太くんのように、住む家を引き払って、油津に家族ごと移り住んで来て、その場所で24時間「木藤亮太を演じます」みたいな覚悟を背負った人がいたから上手くいく。街作りというのはそういうことですよ。 

責任を持って、しかし、失敗してもいいからやってみようよ。そういった、チャレンジに対して寛容な社会文化の醸成も大切なことかもしれませんね。 
 

 

__やはり覚悟というものがキーワードのようですね。カンブリア宮殿に出演されたとき、村上龍さんが”寿司屋の2代目がどうしたらパンケーキっていうものを思いつくのか考えれば考えるほどわからない”とおっしゃっていましたよね。経営者の方は感性やスピード感みたいなものが飛び抜けていると思うのですが、それもやはり”覚悟”があるから成り立っているのでしょうか? 

 

  

「いや、本当にそれだけだと思いますよ。覚悟を持って決断をする役職、それが仕事ですから経営者は。時には無茶だと思われても進まないといけない局面もやってきます。未来をイメージして、新しい道筋を創る、ということでもあります。どんなに難しくとも、組織を守るための判断を下すのは最後には一人ですから、時には孤独でもある。 

 うちの会社(一平)も、口蹄疫時には大きな影響を受けて傾きかけていた。僕は商店街で疫復興プロジェクトのリーダーをしていたんですが、その裏で自分の会社はすごく困窮していて。お金も回らないし、その後の3年間くらいはお金がないから領収書も切れなかったですよ(笑) 死んだ先代社長(父)から引き継いだのれんをここで絶ってしまうのかという、本当にギリギリのラインだった。でもそこで立ち止まって「困ったな、ダメかもしれないな」って終わってしまうのは違うと思いました。方法はなんでもいいんです。僕もそれで、仕方なくじゃないけど、とにかく必死に色んな方法を考えた。それで、九州パンケーキの開発にたどり着いたんです。とにかく”やってみること”そこからしか始まらない。 」 

 

__プレッシャーや不安に負けない方法というのはあるんですか?  
  

「よく聞かれるんだけどね。一国の大統領でも、小学生でも、不安の割合は一緒だと思うよ。”解消法”なんて、考えない。それはずっと、”共存"していくものだから」  

”プレッシャーと共存していく”私がその言葉の意味について考えていると、村岡さんのスマートフォンが鳴った。 聞きたいことはまだ山ほどあったが、時間切れのようだ。 

 村岡「まあとにかく、やってみればいいんだよ」 

まだまだ若い”私たち”を後押しするように、村岡さんが、いつもの笑顔で言った。 

彼が作ったこの街(コミュニティ)で、どれだけの未来図が形となっていくのだろうか。 

 

 
 

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村岡 浩司(むらおか こうじ) 

有限会社 一平 代表取締役(1970年3月26日 宮崎市生まれ) 

宮崎大宮高校卒業後、米国(COLORADO MESA UNIVERSITY/コロラド州)に留学。 

米国在学中に学生起業し、帰国後は小売卸業(輸入雑貨/アパレル)を営む。1999年より家業の寿司店「一平寿し」にて職人としての修行を積む。2004年 同社(一平)代表取締役(現職)に就任。「一平寿し」「タリーズコーヒー」「CORNER」をはじめ、多数の飲食店店舗を経営する一方、様々な地域貢献活動(まちづくり)、食を通じたコミュニティ活動にも取り組んでいる。 

2012年に地産プロダクト「九州パンケーキ」を発売開始。全国のスーパー、小売店(約600店舗)での販売を拡大し、今年1月には海外1号店となる「九州パンケーキカフェ台北富錦店(台湾)」をオープンすると予約の取れない人気店に。アジア全域でのグローバルブランドとしての展開を目指し奮闘中。 
 
『第1回地場もん国民大賞』金賞/『九州未来アワード』大賞/『料理マスターブランド』 受賞。カンブリア宮殿、夢職人、日経プラス10、日経ビジネス他 メディア出演多数。ローカルイノベーター55選/日本を元気にする88人(フォーブスJAPAN)に選出。 

 

  

 

 

インタビュアー:MUKASA-HUBレセプショニスト兼ブックスタッフ 倉本亜里沙 

MUKASA-HUBのこれまでとこれから -前編-

 

 

私がMUKASA-HUBに到着すると、村岡さんがお客様を施設内に案内していた。 納期を控え完成にさしかかっている屋舎には、たくさんの施工業者が出入りしている。 少し埃っぽい暖かな風が吹く中で、その活気のある様子は、MUKASA-HUBという新たなコミュニティの鼓動のようにも感じられる。 

 

少し待った後に、腰をおろして話すのに適当な場所を探す。校舎裏へ回ると、広々としたグラウンドを見渡して、村岡さんがふいにこう言った。「3年で30社誘致して、全体で300人規模のベンチャーヴィレッジを作りたいんだ」。私は少し驚いてしまった。彼にとってもう、ここの完成はとっくに中間地点なのだ。持っていたペンと質問リストをしまって、彼の話に身を任せることにした。 

 

 

MUKASA-HUB連載企画 VOL.01  

MUKASA-HUBプロジェクト プロジェクトリーダー

有限会社一平/九州パンケーキ 代表取締役 村岡浩司さん に聞く

MUKASA-HUBのこれまでとこれから(前編)。

 

  

まちづくり」と向き合い続けて

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__そもそもは、九州パンケーキの配送センターのための物件を探していて、 

旧穆佐小学校に出会われたというお話でしたよね? 

 
 

村岡「そもそもの話をすると、僕は15年間、いろいろな場所でまちづくりに関わってきたわけで。  だから、何か新しい事業構想を組み立てる時でも、根っこは必ず地域創生に軸足がある。  

 地域をどう自分たちの事業で変えていくか、角度を少しだけ変えて、いかによくしていけるか。 その中で4年半前に九州パンケーキが生まれて、こうして全国に広がった。そして世界にチャレンジをしていく中で、 業容を拡大するためには起点となる場所が必要となってきた。これ(商品)を作っている人たちがどういうところで働いていて、どこで作られたものがどこから配送されて、どんな想いを持っているのか、そういうことを伝えるって大事だと思いませんか? 

 

 そんなことを考えている時に、ここに出会って。それで一目惚れして、買っちゃえって(笑)  

 

 僕が事業構想を組み立てるときには、 「生み出した利益をどう社会に循環していくか」、というところを常に根っことして具体的に持ち、その出口を見える化することが重要だと考えています。九州パンケーキを例に出すと、パンケーキミックスが売れることで、製造元である会社はもちろん、原材料を育てて供給してくださる九州各地の農家さん、製粉会社さん、ロジスティック、流通、小売...と、利益はつながっていく。そうした”ハッピーサークル”ができることで、地域の企業や人が継続的に潤っていく。僕は長年地域創生に向き合ってきましたが、この”循環する”ということが大事だと思うんです。 

 そして、やはり企業や地域の成長において一番大切な要素は「人」。キーとなる誰かがそこにいて、仲間が集い、みんなを巻き込んでどれだけ深くその事業や地域のことを考えるのか。 そういった起点となりうる人物をどれだけ大切に育てられるか。

 

  僕がこの学校をリノベーションすると決めた時、 多様な価値観と、主体的な行動思想を持った人たちが集まる場所にしようと考えました。私が社業で得た利益を地域に還流させる具体的なアクションがMUKASA-HUBです。つまり、やがて日本中、世界中で食される九州パンケーキをはじめとした弊社の事業で得た利益が地域を支えていく、そんな仕組みをここで完成させたい。」 
 

 

__拠点を作りたいと考えられて、そこから構想が膨らんで、という感じですか? 

 
 

村岡「まあ、買ってから1年半経ってるからね(笑)。初めて見てから2年以上。そう簡単に概念は生み出せないから、何度も何度も考えて、 一つのアイディアを検証し組み立てて、みたいな作業を途方もなく脳内で繰り返す。 投資して作っちゃったら崩せないから。 本当に一番やりたいことはなんなのか、それを見極めるために、それだけの時間がかかりました。」  

 

 

__大きい事業を始めるために、”何かを前に進めていく”ために。一番必要なものは何ですか? 

 
 

村岡「それは、最終的に”背負えるかどうか”、つまり自分が責任をとるかどうか。その一点のみです。 世の中PDCAとかって言うけど、変化の激しい時代に、 もう何十年も前にできたような経済用語に縛られているのはナンセンスだと思います。僕はPDCAじゃなくて、DCIがちょうどいい。つまり、DO(行動) が先で、CHECK(検証)そして、 IMPROVE(改善)このサイクルを繰り返す。 まずはDO(行動)。やると決めるたら行動することが先で、動くことで何らかの成果が付いてくる。 
 
 スピード感が半端ない成功した起業家たちは、こういう思考で事業を次々に立ち上げていく。 

 まずは「やってみよう!」と、ビジョンと共に覚悟をめることが先。やるって決まったら、行動して結果を恐れない。その分失敗も多いけれども、それを許容するベンチャー気質は大事だと思います。 もっとも、海外と比べたら僕ら日本人は心配性だから、”やる”か”やらない”かを決めるためのP(計画)を先にしちゃう。その結果8割くらいは”やらない”という選択をしてしまうわけだから、もったいないよね。 
 

 必要なのは、DCIのサイクルを繰り返していくこと。D(行動)するって決めた段階でP(計画)は絶対にするので、あまり難しく考えない。もちろん、それをやるためには、決断をする訓練が必要かもしれないね。決断の瞬発力を鍛える、というか。大学をどこにいくか?就職をどうするか?旅行先はどこを選ぶか?宿泊先は?今日の食事は?とか、僕からしたら全て同じ”決断”です。人生は全て決断の連続。だから決断の瞬発力を鍛えることで、DCIのサイクルは早くなって、人生は豊かになっていくと思うんです。 

 

 

__決断力って、磨けるものなのでしょうか?ここ高岡でやってみようと決断できた理由もお伺いしたいです。 

 

 

村岡「そうですね、決断の瞬発力は常に意識することで鍛錬できます。例えばレストランに入ってメニューを開いたら3秒で決める、カフェのカウンターで3秒でドリンクのオーダーを決める、これも立派な訓練です。迷いを排除して、判断のスピードを上げる訓練は日常でもできると思います。 

 
 ただ、ここでやろうと私が決めたのは、高岡町のこの空気とこの雰囲気ですかね。 

 

 裏の山には旧薩摩藩の東端の関所があったりして歴史的にも重要な場所なので。明治維新150周年の記念の年に、こうして出会ったのも運命かなと。九州から国を拓く。宮崎から世界を変える起業家を輩出する。そんな気概を持って取り組みたい。静かだし小川が流れてて、環境もいいでしょう(笑)意外と市内からも近いしね。」 

 

 

この街で、日本一のベンチャーヴィレッジを

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(後編へ続く)