新しい時代のワークスタイルとは

MUKASA-HUBトークセッション2日目

ゲスト:ユーケーブリッジ大矢 健治さん

ノーツデザインオフィス藤原祐介さん

ファシリテーター:MUKASA-HUBプロジェクトリーダー村岡浩司

 

 

大矢健治 株式会社ユーケーブリッジ 代表

日本での料理修業を経て92年に単身で渡独。現地で料理を学びながら25歳でオーナーシェフとして独立起業、その後はドイツを拠点に和飲食グループや貿易事業を展開。ドイツでの和食文化啓蒙では20年を超える事業実績を通して最も幅広い顧客層に和食文化を浸透させた日本人の1人として、そして欧州各国にて2014年より解禁された日本産和牛を各国に啓蒙しているパイオニア的存在としても知られている。

ユーケーブリッジ Webサイト http://www.ukb.co.jp/index.html

 

藤原祐介 NOTES DESIGN OFFIC代表 クリエイティブディレクター

 ブランディングに特化した商業施設開発や店舗開発、CI開発、WEB戦略、マーケティング戦略を行う。企業やホテル、飲食、小売、商品、海外ブランドに至るまで、幅広い分野におけるブランディングに精通。

NOTES DESIGN OFFIC Webサイト http://www.notes-design.co.jp/

 

新しい時代のワークスタイルとは

 

村岡「今日のゲストはMUKASA-HUB入居者のお2方、ノーツデザインフィス藤原さんと、ユーケーブリッジの大矢さんです。まずは簡単に自己紹介をお願いします。」

 

大矢「初めまして。ドイツから来ました大矢と言います。現在はヨーロッパで、日本食のグループを経営しています。浩司さんとの出会いは、宮崎で起きた口蹄疫被害がきっかけでした。僕には都城で繁殖農家を営んでいる親戚がいて、当時被害が拡大していく中、都城は最後の砦と言われていていました。彼らが地元で戦っていることを知り、「宮崎と関わりを持たず、遠く離れたところで戦って来たが、このままでいいのだろうか?」と考えるようになりました。

ミュンヘンは食肉加工がとても有名で、オクトーバーフェストなどでも知られています。食肉加工の歴史は700年ほどあって、それに対して水産加工の歴史は100年もないんですよ。日本は全く逆で、水産加工の歴史は六百何十年あるのですが、食肉加工の歴史は100年ほどです。もしかしたら僕らが持っている食肉加工のノウハウを宮崎に持っていくことで、口蹄疫からもう一度立ち直る手伝いができるのではないかと考えました。それで宮崎の情報を集め始めて、浩司さんの活動を知ったんですよね。

 

ちょうど街市(まちいち)の第一回目の時宮崎に戻っていたので、見に行きました。そしたら屋台は出ているんですが、まだ認知度が低かったので、人もまばらでしか歩いていなくて。でもその角にCORNERという店を見つけました。浩司さん達がニコニコ笑いながら、夢を語ってるんですよ。今日はこうでも、いつか絶対に一番街を人で溢れかえるような場所にするんだっていう、確信みたいなものが見えて、僕にはCORNERという場所が輝いて見えました。この人だったらと思い、手紙とお土産だけ置いて、ドイツに戻りました。その後Twitterで連絡を取らせていただいて。」

村岡「そうそう、でもあのサプライズは、僕が女の人だったらころっといってましたよ(笑)本当に運命的な出会いだったなと思います。では続いて藤原さん、お願いします。」

 

藤原「初めまして、ノーツデザインオフィスの代表をしております、藤原と申します。事業家をデザインでサポートする仕事をしています。宮崎の気候と人柄、あと村岡さんにお会いしてその気概に男惚れをいたししまして、この場所に参加をさせていただいた次第です。」

 

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村岡「ありがとうございます。具体的には、どのような仕事をしていらっしゃるのですか?」

 

藤原「はい。具体例を挙げると、8月にボルボという自動車メーカーが、日本のマーケットを広げるため、青山に新しいショールームを作ります。そこで車の販売をするだけではなく、スウェーデンの文化・ボルボのブランド価値を体験してもらうためのコンセプトワークをしています。そのカフェは日本のどの事業者とコラボレーションすればより“伝わる“ものを作れるのか。そういったブランドシナジーを計画したりしています。あとは海外のブランドが日本に入って来るお手伝いなどもしていますね。」

 
世界とつなぐ”どこでもドア”

 

村岡「宮崎にいると、東京とか世界が遠く感じられることもあるかと思います。MUKASA-HUBにオフィスを持とうと思った理由を教えていただきたいです。」

 

大矢「ユーケーブリッジという会社は、僕と実の弟で立ち上げました。僕は食を中心に、弟は舞台のプロダクションを中心に活動をしています。彼は年間約500公演以上行なっていて、AKB48やソニーミュージック、ジャニーズなど、様々なアーティストと仕事をしてきました。

 

僕らは小さい頃から、将来は2人で一緒に、誰かを笑顔にしたり、幸せにできたらいいねという話をしていました。彼はエンタメ畑で、僕は食畑で、全然違うように見えますが、久しぶりに会ってみると、お互い話していることが全く一緒だったんですよ。食とエンターテイメントをもっと融合させて、人が考えないことやろうと、2人で会社を作りました。去年熊本の震災があった時にベルリンにミシュランシェフとか音楽家の人とか、世界中の大使を集めて復興ダイニングを開催したことで、チューニングがあって来たような感じがしていて。そして去年浩司さんからMUKASA-HUBのことを聞いて、どこでもドアの扉をここに作ろうかな、と。食の世界であれば、16カ国のネットワークに信頼ができる方々を胸を張って紹介できます。ここに入居されている方や、これからここの扉を叩く方と、共に作り上げていけるような存在になれればと思って入居しました。」

 

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村岡「九州とヨーロッパを繋げていく。地域のプロモーションとか、食材プロモーションって“個人では出来ない”ことなのではないか、という思い込みが地域にあって、それでみんな行政に乗っかってやっています。みんなで足並みをそろえてお願いします、という風潮があるんだけどそんなに世界は甘くないわけで。此処に“どこでもドア”があればいつでもノックして、相談したりできますよね。藤原さんはどうですか、宮崎にオフィスを作る意義を教えてください。」

 

藤原「どこでもドアの話と繋がるのですが、我々も世界各国とスカイプミーティングで仕事を進めているので、ある特定の場所である必然性がないというか、場所を選ばなくなった時代だなとすごく感じています。人が動くどこでもドアではなくて、見えるどこでもドアは世の中に増えて来ている。その中で、どこに身を置いて、どこを拠点として働いていくかということを考えた時に、私は妻が宮崎出身ということ、そして村岡さんのアツさと、あとこの空気感というか、流れている時間の感じに惹かれました。」

 

村岡「そうなんですよ。実際に高岡町に入ると急に空気が、酸素が、濃ゆくなる感じ(笑)。」

 

藤原「はい、妻のお義父さんに、“そんなに東京で活躍してるんだったら、宮崎でも何かやりなよ”と言われてはいたのですが、今回こうゆうご縁をいただいて、土地や施設ができたストーリーにもとても共感して。入居は即決でしたね。」

 

村岡「ありがとうございます。藤原さんが来てくれて、本当に嬉しいです。ワークスタイルの多様性という面から考えても、ノーツデザインさんはすごく面白いんですよね。色んなところにクリエイターがいたりして。今は何ヶ所くらいにいるんですか?」

 

藤原「今代官山・幕張・ホノルル・メルボルンと、全部で4箇所ですね。」

 

村岡「ホノルルにオフィスを作ったのは、自分が行きたいから?(笑)」

 

藤原「まあ少し公私混同している部分があるのは、認めます(笑)ただホノルルでもビックプロジェクトをたくさん動かしていて。あと、石垣島でリゾートホテルをやっているのですが、正直ホノルルと石垣島はあまり仕事する気になれない。空気感が働く気になれないんですよね。でもここだったら、ちょうどいい緊張感と、太陽が沈んだら家に帰ろうっていう気持ちで働ける感じがすごくするんですよ。健康的に働けそうだなと思っています。」

 

この時代のワークスタイル

 

村岡「コワーキングはおそらくこれから日本中に増えて行きますが、その概念自体があまり定まっていなかったように思います。先日、ロサンジェルス・サンフランシスコ、そしてシリコンバレーにも何十年かぶりに行く機会があって。そこでみたもので、ここの運用に反映した部分は、運営の時間です。朝から晩まで遅い時間まで開けて日曜日もやろうと思っていたのですが、シリコンバレーのコワーキングで日曜日空いているところは少ないんですよね。そもそも日曜にまで働くっておかしい。夕方まで働いて、それからの時間は地域でパーティーに参加してたりとか、ビジネスコンテストに行ったりとか、“人に会う時間に使うべき”という感覚だった。ヨーロッパではどうですか?コワーキングで人が集って仕事をする文化はありますか。」

 

大矢「EUが統合されてからはすごく増えましたね。それまでは一つの空間に当たり前にドイツ人しかいなかったのに、当たり前に様々な国の人たちが周りに現れ始めて。単純にそういう人たちが集まるスペースや、ゲストハウスも増えたように思います。」

 

村岡「MUKASA-HUBも、1、2年していくと、2ヶ国語3ヶ国語飛び交っていたり、半分くらい言語が英語になっていたり。そうゆう風になると本物になるかもしれないね。」

 

藤原「僕の知っている事業家で成功した人は、やはりそういう環境で種をもらったそうです。色んな国の人が集まって話してくる不便さとか、利便性、考え方・出会い・つながりがあって。そこから事業が生まれて、成功されている方もすごく多いので、そんな予感をこの場所にも感じています。」

 

村岡「東京にずっといたクリエイターたちが、この数年間、“東京じゃなくてもいいんじゃないか”と言い始めたのをたまに聞きます。マーケットとしては世界有数だけど、むしろ東京面白くないんじゃないかみたいなことを最近聞いたりするんですよね。なぜなんでしょうか?」

 

藤原「そうですね、そういう話はよく聞きます。東京における公園のあり方なども変わって来ていて、緑を求めているのがすごくよく分かる。地方に行きたがる人は増えてますね、週末疎開みたいな感じで。(笑)」

 

村岡「最近は若いITのベンチャー企業が、日南の油津商店街にも1年間で11社くらい入ったりして、地方の環境のいいところにサテライトオフィスを置くという流れがありますね。」

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藤原「私が感じていることは、自ら事業されている方は自分たちの意思で動くことができるので、拠点がどこであってもインフラが整っていれば仕事ができるんですよね。私は自分の会社のことを“スーパーお手伝いカンパニー“と呼んでいるのですが、我々のような仕事をしていると、クライアントによって時間軸が全く違います。それは時差ではなくて、会社や人ごとのスピード感。”すぐ“の時間が2秒の人もいれば来週の人もいる。クリエイターが距離を超えて仕事をする上で、そこが一番問題だなと思っていて。その中で、我々が今回このMUKASA-HUBに拠点を構えたのは、クライアントと繋がるための拠点はすでにあるので、さらにこの場所をセカンドハブとして使いたいと考えたからです。ここで過ごすしっかりとした豊かな時間をクリエイティブに当てて、ガチャガチャしたことは東京でやるっていう(笑)より質の高いものを作る体制としては非常にいいと思っています。」

 

村岡「“スーパーお手伝いカンパニー“面白いですね。相手のサービス、顧客の方の要求する時間軸にこちら側が合わせるというのは、できそうでできなかった斬新な考え方のような気がします。健治くんは、ドイツで生活していて移動する時間も多いので、時間の調整って難しいのではないですか?様々なクライアントを抱える仕事ですよね?行政が相手だったり、企業が相手だったり。」

 

大矢「そうですね、今は年間で300回くらい飛行機に乗っていますし、難しい部分もあります。僕はこのMUKASA-HUBをセラーだと考えています。今は西麻布に事務所があり、ミュンヘン・パリにも拠点を構えていますが、そこでキャッチしたものを繋いで、このセラーで熟成させたいんですよ。」

 

村岡「ワインセラーのように?いいですね。例えばここに100人くらい、違う事業領域で仕事をしている人間を集める。そこで議論をして、どういう掛け算ができるのか考える、そんなイベントもできたらいいですね。プロフェッショナル大矢健治のフィルターを通した、面白い企業もたくさん九州にあるわけなので。産地の人、加工の人、それを一堂に会して、どうやって“九州という一つの船”に乗って海外に発信していけるか。というのを考えることが必要になってくるのではと考えています。」

 

大矢「そうですね。以前フランスに、日本のイチゴ農家の方達が輸出の話を持ってこられたことがありました。彼らは“私たちのイチゴは世界一甘いんです”と仰っていて、確かにそのイチゴはとても甘く、美味しいのです。でも僕が紹介したフランスのイチゴ農家の方に食べて頂くと、 “確かにあなたの作ったイチゴは甘い。比べて私のイチゴは少し酸っぱいけれども、この甘酸っぱさの中に私たちの遺伝子が全て含まれているんですよ”と。子供達の時期からずっと食べ続けたその地域の味がある。食文化というものはそういうものなのですよね。」

 

 

村岡「自分たちは世界最高だと思っていても、場所が変わればその土地に根付いたものがありますからね。」

 

大矢「僕たちがこういう場所で話をすることで、一歩その新しい部分のエッセンスも考えに加えていただきたい。せっかく生産者として、クオリティの高いものを作っているのだから、それが無駄になってしまわないように。」

 

村岡「九州や宮崎にも、表に出る人・出ない人含めてですが、素晴らしいクリエイターの方がたくさんいます。そういう人が一堂に介して、みんなで九州全体のクリエイティブの質を上げていくことができればいいなと。ボトムアップというよりは上をどんどん引き上げていくことができないですかね?」

 

藤原「十分できるかと。現在進めている仕事の中で、サントリーの響というブランドのブランディングをしています。産地を回って生産者の想いを聞いていると、本当に日々大変な仕事に実直に、取り組まれていることが分かります。でもそれが消費者に伝わっていないことがとても多くて。今後、僕からもその“地域の想い”の部分を情報発信していきたいと思っています。」

 

村岡「これからここにいろんな活動家が集まってくると思います。年齢性別国籍問わず面白い空間にしていきたいので、是非みなさん、一緒に作っていきましょう。本日は本当に、ありがとうございました!」

 

 

 

ライティング:MUKASA-HUBレセプショニスト兼ブックスタッフ 倉本亜里沙