“ものづくり“と“ものがたりづくり“を一緒に考えていく

MUKASA-HUBレセプションパーティー

トークセッション1日目 

ゲスト:

CMディレクター今村直樹さん

クリエイティブディレクター田中淳一さん 

 ファシリテーター

MUKASA-HUBプロジェクトリーダー 村岡浩司 

 

今村直樹

1954年生まれ、岐阜県出身、CMディレクター。東北芸術工科大学映像学科教授。上智大学新聞学科卒業後、サン・アドなどの広告制作会社を経て、1988年に独立し、今村直樹事務所を設立。2002年よりCM制作者集団・ライブラリーを主宰している。サントリーリクルート資生堂花王、ライオン、JR東海JR東日本トヨタ、日産、メルセデスベンツ、味の素、ソニーパナソニックなど、数多くの企業のテレビコマーシャルを企画・演出してきた。ACC賞、ニューヨークADC 賞、消費者のためになった広告賞最優秀賞など受賞多数。最近の代表作に、第一生命・ダイワハウス協和発酵キリンジャパネットたかたなどの企業広告、マスターカードpricelessシリーズ、シャープアクオス住友生命などがある。2011年、早稲田大学大学院公共経営研究科を卒業し、地域活性化のための広告にも目を向けている。

https://www.facebook.com/naoki.imamura.12

田中淳一

宮崎県延岡市出身。早稲田大学第一文学部演劇専修卒業、旭通信社(現ADK)入社。ほぼ全業種の大手企業で多くのキャンぺーンを担当し、2014年10月退社。同年、クリエイティブ・ブティックPOPS設立。現在、全国15都府県以上で自治体やローカル企業のブランディングやプロモーションを担う一方、大手企業やローカル企業のグローバルコミュニケーション、GOOD DESIGN EXHIBITION2015のクリエイティブ・ディレクション、長編コンテンツの脚本なども手がける。Spikes Asia、ADFEST、NY festival、BDA、short short film festival & Asia、ACC賞、日経広告賞、毎日広告デザイン賞、消費者のためになった広告コンクール、トロント国際映画祭公式上映など国内外受賞歴、国際広告祭の審査員歴、各地の大学や公共機関などでの講演も多数。

http://pops-inc.jp/about/

 

 

 

MUKASA-HUB連載企画 VOL.02  

今村直樹さん・田中淳一さんに聞く

“ものづくり“と“ものがたりづくり“を一緒に考えていく
〜これからの地方ブランディングに求められること〜

 

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村岡「九州パンケーキというのは非常に特殊な成長の仕方をしてきたブランドかもしれません。実はこのブランドが生まれた時、現在のロゴや映像はできていませんでした。そのまま未完成で発売して、後からロゴマークを刷新したり映像を作りマーケットに発信していきました。面白い流れですよね。当時のことも振り返りながら、お二方を紹介したいと思います。」

 

 

今村「みなさんこんにちは。まずは村岡さんMUKASA-HUBスタートおめでとうございます。私は30年以上、CMデイレクターをしてきました。今は東北の山形にある東北芸術工科大学というところで映像学科の教授をしています。ご縁があって、九州パンケーキのCMの制作をさせていただきました。MUKASA-HUBの映像も、あと数日で第3弾が完成します。そちらの制作もお手伝いしました。よろしくお願いします。」

 

 

田中「村岡さんおめでとうございます。田中淳一といいます。僕は延岡出身で、しばらく東京の広告会社に勤めていました。2年程前に”ローカルソーシャルグローバル”がコンセプトの、“POPS”という会社を立ち上げ、全国の自治体のブランディングをしています。今村さんとは芸工大の非常勤で一緒に授業をさせていただいています。」

 

 

村岡「ありがとうございます。九州パンケーキを語る時に、今村直樹という人間なしでは語ることができません。このブランドは4年半前に誕生したのですが当時は売る場所がありませんでした。でも一度食べていただければ必ず気に入ってもらえると確信があったので、発売を先行して色々な方にお配りしました。その中の1人が今村監督だったんですね。僕ははっきり覚えているんですが、1月5日、夕方の6時くらいにすごく想いのこもった、長文のメールが届いていて。その文面の最後に、「CMを作りましょう」と書いてあったんです。すごいなぁとは思ったけれどとんでもない、CMなんか絶対に無理だと思いました。なぜなら、資金は開発で全て使い果たしてしまっていたからです。九州パンケーキは、口蹄疫新燃岳噴火の直後で、一番苦しい時期に生み出したものでした。しかし今村さんは、”オフコマーシャル”というものがあるということを教えてくださいました。今村さん、オフコマーシャルについて話していただけますか。」

 

-オフコマーシャルという考え方-

 

今村「はい。通常CMにはクライアントがいて、予算があって、テレビで放送する計画があって、広告全体のプランがあります。その流れをまるごと逆にしたのがオフコマーシャルだと僕は説明しています。僕がいいと思うクライアントを見つけて、予算の面も含め相談しながら作っていく。ちょうどその頃にYoutubeが登場してきたので、なんだ、タダでオンエアできるじゃん!ってなって(笑)それに映像には制作に関わった人の気持ちを一つにしていく力があるので、そうゆうところも含めて、オフコマーシャルは面白い。最初は東京の小さなファッションメーカーから初めて、2本目にシャボン玉石鹸という北九州無添加石鹸、3番目に長野県小布施町にある一市村酒造場のCMを作りました。全く予算のないところから資金を捻出してもらったり、あとから支払ってもらったり。僕が出したこともありましたね。そして4本目に始めることになったのが九州パンケーキという経緯でした。」

 

村岡「そうですね。当然もう発売はしていたのですが、監督からこれを全国で売るにはロゴが野暮ったいし力がないので、パッケージを思い切って変えませんか?と提案されたんですよ。無茶苦茶ですよね?(笑)資金のない中でやりくりして、すでにラベルも作っていたので少し考えましたが、どうせやるからにはということで、日高英輝さんに依頼して、素敵なロゴを作って頂き、すべて刷新しました。そこから1年半かけて九州中を旅して、このコマーシャルを作りました。

 

https://youtu.be/Z1vmuM3P-4I

Happy Pancake編

 

https://youtu.be/eoWr-DE1FHA

インタビュー編

 

村岡「僕はなにか壁に当たった時、分岐点に立った時に、このCMを見てイメージをすり合わせて行くようにしています。実はこのオフィス(MUKASA-HUB)を作ろうと思ったのも、以前の少し手狭なオフィスでスタッフが配送作業をしている風景を見て、違和感を感じてのことでした。つまり、九州パンケーキ的な働き方を社内にも浸透させたいと。先にイメージ(映像)を作って、僕はそこに存在する世界観に合わせていく。そうゆう不思議な育ち方をしたブランドです。田中さんは東京の第一線で仕事をしながら地域でも活動されていますが、どういった想い・考え方で地元に戻っていらしたんですか?」

 

-これからの地方ブランディングに求められること-

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田中「長い間東京で映像を作ってきて、“もう僕以外の人たちでいいんではないのか“という想いが強くなりました。僕は地方のために映像を作って、その場所で必要とされる存在でいたいな、と。色々なところを回って制作をしていて、今は非常に精神的には健全な状態で仕事ができています。」

村岡「たくさん作品がある中で、今日は田中さんの地元、延岡の東九州バスク化構想Special Movieを見ていただきたいと思います。」

 

https://youtu.be/Bby4uxHu6sk

東九州バスク化構想 Special Movie

 

 

村岡「いやぁ、延岡に行きたくなりますよね。プロ同士が聞けないだろうから聞いちゃいますけど、今村さんはこのMovie、どう見られますか?」

今村「僕は最近ムービーデザインという言い方しているのですが。映像を作ることもデザインですが、ただ面白いということだけではなくて、ロゴへのこだわりや“バスク化“という言葉を見つけてきたところが素晴らしい。延岡は海の幸・山の幸が豊かなところなのですが、それをバスク化という言葉で方向づけて、全体を巧みにデザインしている。演出がどうっていうところもあるとは思うのですが全体のプランニングがやっぱり巧みですよね。」

 

村岡「田中さん、今回改めてふるさとを見て感じたことはありましたか?」

 

田中「そうですね。“食でやりたい“と延岡市の方からは言われていたのですが、延岡、食、有名だっけ…みたいな(笑)でも調べてみたら実はたくさんあって。しかし食で町興しというのは、前例も多いので難しいんですね。色々考えて、海の上にレストランを作ったり、他ではできないことにチャレンジしました。実はこの仕掛け(いかだ)も宮崎の看板制作会社にお願いしたのですが、地元の人を巻き込んでいくと、そこにノウハウが蓄積されていくんですよね。そういうことも改めて実感できました。」

 

村岡「最近、地域ブランディングとかそうゆう言葉を耳にする機会が増えているかと思いますが、そのことについてどうお考えですか?」

 

田中「そうですね、再生回数100万回とか、ネットでの再生回数を気にされる方が多いと思うんですが、一番気をつけているのは、地元の人が悲しい気持ちになる動画は作らないということです。どんなに目立っても面白くても、単なる話題だけになってはダメ。そこは大事にしたいなと思っています。」

 

今村「行政中心に映像で発信するのは1種のブームと言ってもいいかもしれません。そこで危惧することが2つあって、1つが継続性です。行政の担当者は3年ごとに変わってしまう。バスク化計画という旗を上げて形にしていくには、10年20年かかると思うのですが、それできちんと継続していけるのか?というところです。あとは、再生回数を指標にするのは危険だということ。僕はたった一人でも、感動してくれた方がいればいいと思っています。100万人にではなく、1人の心にしっかり響く映像を作りたいなと。一番身近な厳しい批評をする人に“何このCM?”っていわれたらダメだと思うんですよね。ものがたくさん売れるということより、身近な人が喜んでくれるとかそういうことをもっと大事にしていかないと。数字、アクセス数が上がればいいという風潮はどうなんだろうって思いますね。」

 

村岡「一人の心に刺さることが大事だということは今村さんにずっと言われていて。本当に数ある今村作品の中で、僕自身も作品であり九州パンケーキも作品だと勝手に思っています。このCMの曲はアンサリーさんという東京のシンガーが、映像からイメージして作ってくれました。これが我々のカフェで流れていて、お客様も1時間後には口ずさみながらかえるくらい、たくさん聞かれるようになっていて。今村さんが作っていただいた九州パンケーキの映像は、お店に来てくださるお客様の潜在意識に刺さる、そうゆう作品になってくれたんじゃないかなと思います。」

 

今村「嬉しいです。村岡さんはこのCMが九州パンケーキを育てたとおっしゃいますが、僕は逆だと思っています。九州パンケーキが生まれた時点でもう全部完成していたと言っても過言ではない。九州7県の素材で作るという考え方がもう全てなんですよね。僕のプランニングでもなんでもなくて、村岡さんの商品の発想なので、そのまま素直に形にしていけばいいと考えながら作りました。」

 

村岡「ありがとうございます。客観的に考えていくと面白いのは、〇〇連携とか6次化とか地域商品を作ろうとする時にどうしたら東京で売れるか?ということを先に考えがちなんですよね。でもそうではなくて、ストーリーをどう表現したいのかという部分に主軸を置いて考えるのが正しい。うちの場合は母体が飲食なので、食卓で笑顔の時間を作りたいというシンプルな思いがあって。そこからどうやってマーケットに届けていくかという手段を当初は僕らは持ち得ていませんでした。が、これからはここにいるみなさんにも更に道を開いていただけると期待しています。

せっかくなので、質問を受け付けたいと思います。てげツーの長友さん、何かありませんか?』

 

長友まさ美さん「ありがとうございます。九州から世界にこんな面白いことが生まれるんじゃないか、というアイデアがあったら是非教えてください。」

 

今村「はい、一つは、地域の映像を作る時に、いいものを作るために東京のスタッフと地域に乗り込んできていたのですが、これからはできるだけ地域の人の力を活用していこうというところです。そうゆう意味では今回Time&Air Partnersさんと映像を作っているし、今後もご一緒できたらいいなと思っています。それから、村岡さんと九州ブランド研究所という構想を練っていて(笑)九州パンケーキのようなブランドを素晴らしいアイデアで生み出そうとしている若い人、ベテランの人、いると思うんですよね。おっ!て思うものがあれば、それを育てる、映像を作る、ロゴを作る、パッケージデザイン一緒に考える。なんでもいいので、東京でやって来たスキルをもっと地域の志のある人のために活用する、一緒に作っていける、そうゆう基地みたいなものを作りたいという思いがあります。」

田中「日本には、各地に現地に根ざしたものづくりのスキルもあるし伝統もあります。そこに足りないのは物語作りで。“ものづくり”は一流だけれども、それを“ものがたり“として”魅せる”ことがあまり上手じゃなかった。客観的に見ると“九州パンケーキ”はもう、名前自体がストーリーなんですよね。“ものづくり“と“ものがたりづくり“を一緒に考えていくことが、これからの地方には非常に求められていく部分なのではないかなと思っています。僕らのような職(クリエイテイブデイレクター)の人間が、地方に出向くのも限界があるので、地元にもっとそういった人材が生まれるべきです。アートディレクターやコピーライターもそうですし、そこからクリエイテイブデイレクターが出てくるというようなことが必要です。MUKASA-HUBからもそうゆうきっかけが生まれてくると思いますので、もちろんお手伝いしますし、ここが基地になってクリエーターが生まれていく場所になってほしいなというふうに思っています。この場所が、宮崎が発展する一つのきっかけになるんじゃないかなと思います。」

村岡「ありがとうございます。ところで九州ブランド研究所(注)、今日からスタートということでよろしいですか?」

今村「もちろんです!」

村岡「CM業界のレジェント、クリエイテイブの巨匠、お2方が揃って、ここにいらっしゃる方たちだけでも、本当に面白いものが生まれるんじゃないかなと思います。人とか地域とか物とかいろんなものが生まれる予感がしますね。引き続きMUKASA-HUBを、よろしくお願いします!」

 

 


注:九州ブランド研究所

CMディレクター今村直樹さんが主催する、九州の良いもの、こと、人、地域を元気にする「映像を軸とするクリエイティブの力で、地域の課題を解決する」プロジェクト構想。

 

 

 

 

ライティング:MUKASA-HUBレセプショニスト兼ブックスタッフ 倉本亜里沙